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仙台家庭裁判所 昭和60年(少)13411号 決定 1985年9月20日

少年 H・Y(昭44.3.29生)

主文

この事件については審判を開始しない。

理由

一  本件送致事実

検察官作成の少年についての送致書には審判に付すべき事由として「少年法第3条第1項第1号、司法警察員事件送致書記載の犯罪事実」との記載があり(定型文言が印刷されており、上記内容部分に赤丸印が付されている。)、その引用に係る司法警察員作成の少年についての送致書の「被疑事実の要旨」欄において、犯罪事実の内容となるものとしては、被疑者氏名、日時、場所、被疑者の運転車両の記載があり、これらに加えて「安全運転義務違反70、119I(9)」と印刷された箇所に印が付けられているだけである。すなわち、上記安全運転義務違反の内容は全く示されていない送致事実となつている。

二  道路交通法70条違反の内容

道路交通法70条は、車両等を運転する場合の一般的義務(いわゆる安全運転義務)を定めているが、その規定の表現が極めて抽象的で特にどのような運転行為が同条後段の「他人に危害を及ぼすような速度と方法で運転したもの」に該当するのか必ずしも明らかではない。そして、故意又は過失による同条違反に罰則が設けられていること(同法119条1項9号、2項)に鑑みれば、同法70条の解釈は厳格になされるべきであるし、同条は同法の他の規定との関係では補充的に適用されるべきである。したがつて、同条違反の罪責を問うためには、それ自体が一般的にみて事故に結びつく蓋然性の高い危険な速度、方法による運転行為であること、又は、道路、交通、当該運転車両等の具体的状況のもとで、それが上記同様の危険な運転行為といえる場合であることを要するというべきである。

三  審判に付すべき事由の特定性とその不特定な場合の補正

道路交通法70条違反について上述したところは、少年保護事件においても何ら異なるところはないというべきである。そして、少年審判規則8条1項2号は「審判に付すべき事由」を記載して家庭裁判所に事件送致しなければならないと定めているが、その内容が特定している必要があることは、少年審判手続の確実性及び少年の地位の安定(特に不告不理の原則が少年保護事件においても十分に尊重されるべきであること)そしてひいては保護処分を含む保護的措置の少年に対する所期の改善効果達成からの当然の要請であると解される。

これを本件についてみると、道路交通法70条違反の内容は上述のとおりであつて、審判に付すべき事由においても、その内容が上述の運転行為である旨具体的に明示されなければ、同条違反の内容としては特定性を欠くというべきであるところ、本件送致事実は前述のとおりであつて、道路交通法70条違反の内容については何ら明らかにされていないので、その内容の特定性を全く欠いているものであるといわなければならない。また、そのために本件送致手続は違法でかつ審判に付すべき事由に内容の特定性が要求される上記趣旨に照らすと重大な方式違反であるから無効であるというべきである。

しかし、送致機関に上記瑕疵についての補正の意思が明確に認められない場合でない限り、その補正の機会が与えられてしかるべきであると考えられる。そこで、少年法16条2項に基づいて(この規定の本来の趣旨とは若干そぐわないが、上記機会を付与するにはこの規定によらざるをえないと思われる。)、本件送致手続を担当した検察官に対して本件送致事実の内容を特定するための機会を与えたところ、その必要性は認められず本件送致事実の補充はしないとの回答であつた(なお従前、道路交通法70条違反の送致事実に関する上述したような問題をめぐり、当裁判所と送致機関との間で何度か協議が重ねられた経緯がある。)。

四  結論

以上のことから、結局本件は無効な送致手続に基づくものであつて、審判条件を欠くものといわざるをえない。

よつて、この事件については審判を開始しないこととし、少年法19条1項により、主文のとおり決定する。

(裁判官 大門匡)

〔参考〕司法警察員作成の送致書<省略>

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